月別アーカイブ: 2015年10月

蝉の抜け殻  高橋 禮子

 

蝉の抜け殻

高橋 禮子

伸ばす手に届くようですひとひらの雲よおまえはどなたのこころ

長生きをせんとて歩く雁沢遺跡めぐり巡りて古代びとめく

見てよ見て7が六つも並んでる君のエールかこのくじ番号

次々とダンボール箱を畳みゆくこれにて広がるひとりの空間

私のこどもは歌集と言ってよりまだまだ続くわれの子育て

そうだこれ飛ぶならこれだエゴノキに夏のなごりの蝉のぬけがら

「詠むことはいきることです」すんなりと言ってしまって早や数十年

紅モード   高橋 禮子

 

紅モード

高橋 禮子

ひとり飲むラジルメラード空席に昔の恋を転がしながら

六階のまどにおさまる夕焼はどなたを祝福してるのだろう

水無月の日差しに負けたくないもんで買ったばかりの紅モード

なべの底ゴシゴシこする一人って自由だけれど不自由だから

土砂降りの雨の勢いスバラシイ見つめて眺めて吞む生たまご

私がわたしに届ける旨いものトガコマイ風スイートポテト

月桂樹思いのままに刈りこんで独りよがりの我のかんむり

風の便り   高橋禮子

 

風の便り
高橋 禮子
錫高野の風の便りを聞きながら辿りてみたり黒沢止幾を

彗星の白きを夜ごと見たるゆえ天下危うし立たねばと止幾

くしやかんざし江戸に仕入れて地方へと売り歩きたり学びながらに

錫高野を発ちたる日より三十四日京に止幾ありいざこれからと

怪しげな動きの女と囚わるも乱れせざり大願ある身

囚わるもおりにふれ詠む歌のよし人の心にしんと響きて

止幾の語録に「女だから」はあらざりき女だからこそ京へと上る

幕末の女傑と称さる一方に日記に著く寺小屋スナップ

日本で初の女教師 寺小屋の家に生まれたるおみなごの生

安政の六年二月長歌にて直訴せんとて京都を目指す

帰京後の記録に詳細のこされて「捕われの記」の筆致の清し

広浦ロマン  高橋禮子

 

広浦ロマン

高橋 禮子

さらさらさら零れる光をわがものにせんと出向く涸沼の浦に

万葉のころとさほどは違わぬか鳥と風との語らい聞こゆ

斉昭の隷書が日差しに鎮もれり「広浦秋月」空の広がり

ふたつほど白きヨットの帆の見えて引き戻されるうつつ平成

恋を知る乙女の涙と思われて水に戻せりあかき小石を

いっときを共にあらんと上手より長き毛のねこ一匹かけくる

水鳥の仕草じいっと眺めいて猫の視線をそらせずにいる

さざなみに乗りて西へと泳ぐ鳥すでに汽水は春のぬくもり

乳色の風に送られ下手へと去らんとするに四葉のクローバー

ひとりにはひとりのロマン二匹には二匹のロマン広浦ろまん

宴のピリオド  高橋禮子

 

宴のピリオド

高橋 禮子

初めてのことゆえまずは見回せり著書に集える二千の人らを

もり上げる役はこの際エキストラ群れる人らの内なるひとり

祝う人らにすっかりフロアは占められて隙間あらざり歩くもならず

政治家の説得力とはこれならん肯きながら祝辞を聞いてる

国民の一人であって県民のひとりでもあるわれら水戸市民

広げゆく夢をうつつとなせる技ときおりのぞかす壇上の若者

ロビーにて待つは「上善水のごとし」水のいろなる宴のピリオド