月別アーカイブ: 2016年2月

月のお告げ  高橋 禮子

 

月のお告げ
高橋 禮子

いつの間に緑捨てたかゴムの葉のひとつ黄の色 床にぽっとん

落ちたのか落とされたのかは知らぬまま拾いておこう机の上に

実らざる恋よ実れと祈るらんゴムのひと葉はその黄のいろに

撮られつつ心も取られてしまいそう走る言葉が矢羽のようで

このへんで短歌に命運賭けるべし荒川静香の靴のひもほど

フレッシュな情感にみちた歌見せよ届く頼りは月のお告げか

月になら全てを見せてもいいだろう今更ながらの秋のアイテム

四連覇ねらうノムラのためならば私も背負う柔道にっぽん

画家の迫力  高橋禮子

加山又造「雪の桜島」

画家の迫力
高橋 禮子

二〇〇四年に逝きたることは知らざりき並ぶ作品みな生きている

初期の作「きつね」に会いて思えたりファンの一人になれるかも知れぬ

「渦潮」に足を止められしばし聞くこの音あるいは筆の唸りか

大胆でかつ透明なる筆運び深あく沈みて怖きほどなり

心眼を持てよと喩されているような画家の迫力身にひびき来て

わが視点ぴたり合わせん水墨の鳥のションボリ胃を軋ませる

独自なるものを美しくという思い凛と放ちて引くことのなし

画家たらん又造のこのエネルギー選りたる「雪の桜島」こそ

生涯を七十六にて終えたるも今なお人に元気を与える

あしたをおくれ 高橋禮子

 

あしたをおくれ
高橋 禮子
御前零時の通話に五月の幸せが隠されているかもしれなくて

石のかえるが呼びかけてくる触れてみよ望みのままに若返るから

限りなく自分を信じる松坂の飛沫が散るならここまで届け

ダッグアウトに王監督のこぼしたるその笑顔こそ少年のよう

下の句を掛けなくなったボールペン芯ぬきたればまさに透明

半世紀もパリを描いた村山密(しづか)の呟き聞こえるマイワールドっこそ

草みどりツツンつんつん抜いてゆくごめん私にあしたをおくれ

生きるって楽しいことだよほんとだよ肩の力をぬいてごらんよ

ローズルージェ  高橋禮子

 

ローズルージェ
高橋 禮子
ひといきに南の風を吸い込まんシンプルライフを貫くために

すなおなる昭和の子等に囲まれて弾んでいたっけわが二十代

とっときの服みたいのを着てくるんだね Kくんいわく

ナホトカの駅のベンチにときを食む私がいて夏のホリデー

果てしない未来があると思ってた赤いじゅうたん羽田空港

日記帳「バラの香り」が語りだす昔むかしはもう遠くって

私がもっとわたしになれるようにここにて消さんバラの香りは

資生堂のローズルージェを贈られて現(うつつ)はこれと悟りてしまえり

今風の香りまといて生きてゆかん昭和平成しかと踏みつつ

私はレイコ  高橋禮子

 

私はレイコ
高橋 禮子

捨てられぬみどりの電話がそっと吐く二十余年のわれの語録を

高橋と名乗るに禮子さんですかそうよそうです私はレイコ

卓上の栗の最中に手を出すは飾り気あらざるあなたなのです

そっと吐かれた語録の中に隠れ入る私自身をどう解きほぐす

ほろほろと私を囲む歌反故が捨てるのかとわれに迫るく

何万回も捨てる棄てると言ったとて思い切らねば何も変わらぬ

アマゾンの川の色さえ浮かびくる窓辺に寄りて空を見るとき

届きたる君のエールに不覚にも涙こぼしぬほろろんみつぶ