3、柿本人麿


百人一首百彩-3

海野 弘

3、柿本人麿(かきのもとのひとまろ)拾遺集 題しらず

足曳(あしびき)の 山どりの尾のしだり尾の ながながし夜を 獨りかもねむ
28
〔ヤマドリの尾のように、たれさがって、ひきずっているように、長い長い夜を、ひとりで眠るしかないのだ〕
長い夜の孤独な想いは、なにをめぐつているのだろうか。『拾遺集』では(恋の部)に入れている。
愛する人が来ない夜のこととすればわかりよい。長い山どりの尾は、女の黒髪のイメージであるといった解釈もある。
しかし孤独な想いは、恋に限らなくてもいいかもしれない。たとえば罪を問われて地方に流されている、といったことも考えられる、さまざまなことを想像できる歌だ。
柿本人麿(人麻呂)の生涯はほとんどわからない。『万葉集』に入っている歌から推測できるだけである。それによると持統・文武朝(七~八世紀)に活動したらしい。身分の低い官吏で、歌の才能を認められて、天皇のお伴をし、それを讃える歌をつくつている。たとえば持統天皇の吉野行幸に従い、吉野離宮の歌をつくり、軽皇子(かるのみこ=のちの文武天皇)の狩りに従い、軽皇子の父草壁皇子をしのぶ歌をつくつた。一方、軽{奈良県橿原(かしはら)}にいた妻を亡くした悲しみ、石見{いわみ(いまの島根県西部)}の妻との別れの歌など、個人的な変の歌もある。歌の聖とされた人麿についてはさまざまな伝説がつくられた。孤独な夜の想いも、愛なのか、政治的陰謀をめぐるものなのかわからない。

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