68-三条院(さんじょういん)

百人一首百彩-68

海野 弘

68-三条院(さんじょういん)
後拾遺集 例ならずおはしまして、位などさらむと覚しめしける頃、月のあかかりけるを御覧じて

心にも あらで憂世(うきよ)にながらへば、戀しかるべき 夜半の月かな
〔こころにもなく、この憂き世に生きながらえていれば、この夜の、こうこうと照っている月を恋しく思い出すだろう〕

三条院は三条天皇(九七六-一〇一七)である。詞書によると、「例ならず」(身体の具合が悪く)、退位しょうか悩んでいた。その夜の月の明るさを見て詠んだ歌である。
権中納言走頼のところでのべたように、三条天皇は道長に退位を迫られていた。その時、つくつた歌らしい。
天皇をやめてしまって、なんのいいこともなくこのまま生きていくなら、今夜の美しい月のことを思い出すだろう。天皇としてこの月を見るのは、今夜で終わりなのだ。
三条天皇は眼病を患っており、失明して、月が見えなくなる、というおそれもこめられているという。三条は退位し、道長の孫が後一条天皇となり、道長の天下となる。