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先生方の作品集

田舎のセキュリティ

村山 恵美子

 農村に暮らしていると、空き巣や強盗など本当にいるのだろうか、どこにいるのだろうと思ってしまう。「のどか」と言えば確かにそうだ。「無用心だ」と言われればそれも当たっていると思う。

 戸締りをするのは夜間だけで日中鍵をかける習慣がない。チャイムが鳴って出て行くとすでに客は玄関内に入っている。
「あぶないじゃありませんか。農家だからって安心できませんよ。鍵ぐらい…」
 なじみの農機具屋のセールスマンに説教されたりしてしまうのだ。

 10年ほど前、水洗化した折にトイレの内装工事を行った。壁紙と床材を張り替え内窓を入れ替えた。暗いから素通しガラスの内窓にしてくださいと言うと、「普通、トイレは曇りガラスを使いますけど、いいんですか?」と業者さんに念を押された。
 窓の向こうに家はない。あるのは畑と川と山。少し離れて道路があるけれどトイレの窓は高い位置にある。走り抜ける車から、露出した下半身まで見えやしない。だから、真夏の風呂上りなどパンツ一丁のだらしない格好のまま平気でトイレに駆け込んだりする。

 こんな調子だから、都会のアパートに暮らす娘のところに遊びに行くと、
「待って。まだ電気つけないでよ。カーテン閉めるから」
 暗い部屋に戻りすぐに電気をつけようとして私は怒られる。室内が丸見えになるからカーテンが先だと娘は言う。そうなのかい。と黙って従う。娘は当然ながら日中でも施錠を欠かさず、のぞき穴で確認できない相手はドアを開けない。当たり前のことが妙に窮屈で、一泊したら十分、すぐ帰りたくなる。

 施錠もしない農村なのに、なぜ泥棒が入らないのか。大きな理由は、「田舎の干渉」だろうと思う。長いこと発見されない孤独死なんていうものは田舎では起こらない。常によその動向を見ているからだ。一晩電気が灯らなかっただけで、「どこか行ってたの?ゆうべ暗かったけど」すぐ聞かれる。最近姿が見えないとなれば不審がって電話が入るし、「このごろ、あそこの婆さん見た?」畦道での話題に上る。

 これですもの、見たことのない車や人が来た日には、「あれはだれだ」から始まり、なんの用事があって来たヤツなのだろうと注視する。悪人の侵入を許さない干渉の力。「朝出て晩まで帰ってこんかったぞ、あそこの嫁」こういった干渉は、「やめてくれ」ですが、田舎の干渉のセキュリティ効果は大きいようです。


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