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先生方の作品集

夏の日の出来事

          村山 恵美子

 真夏の夕刻、デパートでお買い物を済ませ帰ろうとしたときだった。
車に荷物を乗せ運転席に乗り込むと、食料品売り場のレジで私の後ろにいたおばあさんが駐車場に歩いて来るのが見えた。右手に杖、左手に小さな巾着バッグ、少々腰も曲がっている。なんとなく気になって、私はその姿をフロントガラス越しに目で追っていた。さっき買ったはずの買い物袋はどうしたのだろう。どこかに忘れてきたのではあるまいか。いやまてよ、重いからきっと配達を頼んだのかもしれない。

と、おばあさんが立ち止って振り返り、だれかに話しかけているようだった。どうやら連れがいたらしい。少し遅れて後ろから現れたのは、これまたかなり高齢と思われる白髪で細身のおじいさん。満杯の買い物袋を両手に提げている。歩み寄って片方の買い物袋を取ろうとするおばあさん。袋を放さず向こうの方を顎をしゃくって何かを言うおじいさん。
“重いでしょう。一つ私が持ちますよ”
“いい。大丈夫だ。ほら早く先に行け”
 そんなやりとりを想像した。

 彼らの車はどこだろう。私は広い屋外駐車場をぐるりと見回した。すると間もなく二人の足は止まった。
「えっ…」車に乗り込む彼らの様子に私の目は釘付けになった。なんと、車は車でも『単車』である。買い物袋を後ろのケースに入れてからブーツに履き替え首にスカーフを巻き始めたおじいさん。二人揃いの黒いヘルメットを被りサイドカーにすぽんと乗り込むおばあさん。杖は伸縮自在らしく縮めてサイドシートの脇に格納しているではないか。
あっけにとられぽかんと口を開けた私を尻目に、ぴかぴかに光る大きなバイクがバリバリとエンジン音を響かせ、颯爽と走り去る。背筋を伸ばしたおじいさんのサングラスがキラリと光っていた。
 なんということだ。風もなくじりじりとアスファルトを焼く西日の中、自ら風になる老夫婦。あっぱれである。
 
どこかでまたあのかっこいい二人に会えないものかとバイクを探すのだが、その日以来一度も会えずにいる。


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