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先生方の作品集

雪降る夜の迷い人

          村山 恵美子 

 雪の舞う冬の夜、出かけていた夫が家に戻るなり、
「今、だれかが、そこの道路を歩いていった」と言います。
 道路を人が歩く。普通に考えれば当たり前の話です。でもここは雪深い北海道の民家もまばらな田舎道。聞けば聞くほど、どうもなにか変なのです。

 「それ、徘徊者か酔っ払いじゃないの?」気になって2人で車を走らせてみると、見つけました。大人です。真っ暗な冬空の下、疲れ歩けなくなったのか道路の端に腰を下ろし雪の上に座っています。ジャンパーのフードをすっぽりとかぶり下を向いていて顔が見えません。何者だろう…。不気味なのですが放ってもおけず恐る恐る近づき声をかけてみました。
 顔を見ると高齢の男性、おじいちゃんでした。施設に入っているばあさんの様子を見に来て、家に帰るところだと言います。住所を聞いてみると家がまったく逆方向だということが判明し、驚いたことに、全然違う方角に3時間も歩いているらしいのです。方向が分からなくなったようです。
「送るから、車に乗って行かんかい。家まで、まだかなりあるよ」
 そう勧めたのですが、「人様に迷惑かけられん」と言い、歩いて帰るから大丈夫だと頑として言うことを聞きません。とても大丈夫とは思えないのですが、首に縄をつけて引っ張るわけにもいかず、「じゃあ気をつけてね」と私たちはその場を離れました。
車に戻ってすぐに携帯を取り出し町の駐在所に電話しました。状況を説明し、「すぐ来てください。お願いしますね」と頼みました。
 その後、「無事家に送り届けましたので」とおまわりさんから連絡が入り、よかったねえと2人でほっとしました。

 私は無意識に、父の姿と重ね合わせていたのかもしれません。延々と歩き続ける今夜のおじいちゃんは、近い将来の父の姿かもしれない、と。そうなったとき、「どうかしましたか?」「どこへ行くんですか。こんな時間に」とだれか声を掛けてやってくれないだろうか、と。
家への道順は忘れちゃったけれど、人に迷惑かけてはならぬということは忘れていないおじいちゃん。もうこっちに来ちゃだめよ。おじいちゃんの家は町の向こう側なんだからね。頼むよ。


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