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先生方の作品集

そんなこと知りません

村山 恵美子

 息子夫婦が2階、自分たちは1階と二世帯住宅を建てた知人がいる。老朽化していた住宅の建て替えを計画し始めたところに、ちょうど息子の結婚が決まり、そのような設計にしたと彼女が言う。

 ある日の夕方、台所のコンロに見慣れない鍋が置いてありカレーが入っていたそうだ。お嫁さんが気を利かせて作ってくれたらしい。とっても嬉しい。ありがたいなあと思うと同時に嫌な予感がした。かき混ぜてみると肉が見えた。肉をまったく食べられない彼女は、まあいい、肉は夫に食べさせて私は肉を食べなければそれでいい。せっかく作ってくれたのだ、と食べた。台所も別々だから、肉嫌いだということをあえて言う必要もないと伝えていなかったのだ。

「美味しかったよ。ごちそうさん。ありがとうね」
と翌日、綺麗に洗った鍋をお嫁さんに返した。喜ばれるともっと喜んでもらいたいと思うのが人の常。三日後、今度はマーボー豆腐が置かれていた。ひき肉たっぷりの上にとろみがついたマーボー豆腐ときては、さすがに肉嫌いの彼女はお手上げである。
「あたしは無理だから、あんた全部食べてね」夫に丸投げした。
「肉食えないってちゃんと言えよ」
 と夫が言う。そうだよね、ちゃんと言わなくちゃね。カレーの鍋を返すときに言うべきだった。しかし、それにしてもだ。息子が居るではないか。「母さんは肉がダメなんだ」あいつはどうしてそう一言嫁に言ってくれないのだ。
 嫁もらった途端に、母の記憶はどこかにぶっ飛んじゃうものなの?と彼女はえらく憤慨していた。

 翻って我が息子はと言えば、大学生になり親元を離れたとき何か書類に記入せねばならぬことがあったのだろう「親の生年月日を教えてくれ」と電話をよこしたことがあって、親の誕生日を知らないなんてバカじゃないのかと呆れてしまった。友人の息子など母の日に、母の大嫌いなハッカ味のお菓子を送ってよこし、「うまかっただろう?」とダメ押し電話までよこしたそうだ。
 
「そんなもんだよ」と肉嫌いの彼女をなぐさめたが、母親の食べ物の好みなど、デカクなった息子にとってはどうでもいいのだ。案外、親が子を思うほど子は親を思ってはいないのかもしれない。かもしれないではなくそうなのだ。自分だって親の好みが分かるかと言えばよくわからない。そんなものなのだ。
母が肉嫌いなことを嫁に言わない息子も、親の誕生日を覚えていない息子も、母の嫌いな味のお菓子をプレゼントした息子も、根はいい子なのだ。
変な期待をしちゃいかん。お互い無事に生きてりゃそれでよし、としよう。


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