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先生方の作品集

川面のきらめき

村山 恵美子

 疲れているときや一人になりたいと思うとき、私は川へ向かう。家の裏手を流れる天塩川が、お気に入りの癒しの場となっている。そこに何があるの? どこが面白いの? と聞かれても特別なことなど何もない。流れの見える水辺にじっと座っているだけ、ただそれだけでいい。

 子どもの頃、一歳違いの兄の後を金魚のフンのようにくっ付いて歩いていた。「キャッチボールするぞ」と言われればグラブを持ち、「ヤマベ釣りに行く」となれば竹の釣り竿を持って急いで後ろを追った。遊びの主導権は年上の兄にあるため、男の子がやる遊びばかりを私は覚えてしまい、山や川を猿のように駆け回る活発な少女、と言えば聞こえはいいが土や埃や垢にまみれた汚い子どもだったのだろうと思う。

 半世紀近い時が流れ、昔の記憶も随分曖昧になってしまったのだが、でも時折ふっと思い出すのは、兄と一緒に行った川の光景である。
その川に、光り輝く私だけのお気に入りスポットがあった。そこは、柳の枝がせり出し大きなトンネルのように川を覆っていて、チチチチと木々を渡る鳥の声や浅瀬の水音といった優しい音に包まれていた。絡み合う枝の隙間から差し込む木漏れ日で、川面がキラキラと揺れて光っているとても綺麗な場所。
「あのキラキラ光る水の中には川の女神様が住んでいるのだ」と私は密かに信じていて、絶対に入ってはいけない場所と決めていた。なんの理由でそんな妙なことを考えたのか、今はもうすっかり忘れてしまった。

 四月半ば、土手の向こうに薄緑色になった猫柳が見える。雪解けによる増水の春、川は土色の怖い顔をして人を容易に寄せつけない。でも私は知っている。濁り川は必ず澄んだ水となって流れるものだし、キラキラと光り輝いて心を癒してくれると。
きらめきの中に女神を信じる純な心はもうないけれど、「よく来たな」「ゆっくりしていけや」と川が言ってくれるような気がして、ついつい甘えてよく出向いてしまうのだ。


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