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五月雨       村山 恵美子

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なし 五月雨       村山 恵美子

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前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2015-6-6 9:59 | 最終変更
m-hanami  モデレータ   投稿数: 374
五月雨
          村山恵美子

 子供のころ、雨に濡れるとよく風邪を引いた。特別体が弱かったわけでもなく丈夫な方だったと思うのだが、どういうわけか雨が苦手だった。肩先が濡れるとすぐにざわざわと寒気がして、その夜は決まって熱を出し、翌日学校を休んだりした。
 熱いシャワーを浴びて冷えた体を温めたなら、風邪を引くこともなかったのかもしれない。でもあのころ家にシャワーなんて便利なものはなく、髪を乾かすドライヤーも、まだなかった。
 横殴りの雨が降ると、制服のひだスカートはごわごわに重くなり、自転車を漕ぐ足にまとわりついてひどく冷たい。高校生の私は心底冷えきってしまい、やはり熱を出した。布団の中で咳き込みながら水枕のちゃぽちゃぽという音を聞いていた。
どれもこれも古い記憶である。

 筋金入りの中年女となった今、年を重ねた分私はズルさを身につけ、寝込むほどの風邪はこのごろほとんど引いたことがない。
決して雨に打たれ強くなったわけではない。濡れないようじっとやり過ごすのが一番賢明だとわかったからだ。
 しかし職業柄、どうにも避けて通れない雨がある。田植え最中に降る雨『五月雨』だ。運んできた苗を弱らせることなく元気なまま植え付けできるため、田植えに限ってはカンカン照りよりもむしろ、日差しのない雨降りが良いとされている。
 確かに稲の苗には良いかもしれぬが、雨嫌いの私はいやだ。早朝から雨合羽を着ての作業がいやでいやでたまらない。
誰が名付けたかさみだれという言葉の響きはとても美しいと思う。水田に雨粒が落ち波紋がぎっしりと広がる。これもまた風情があって美しい光景だ。
だが現実は、容赦なく冷たく寒い。そしてどうしてだろう、なんとなく切なく物悲しいのだ。

 ほぼ一週間を要する田植え。一度も雨に遭わずに済むことなどまずない。植えないことには収穫へたどり着けないので、雨だからと逃げ回るわけにもいかず、ここは一つ気合いを入れて歯を食いしばるしかない。
 始めたからには雨が降ろうが槍が降ろうが休まずに、一気呵成に終わるまで駆け抜ける。
そんな田植えは五月下旬に行われる。


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