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アプローチの仕方によっては…相原智記

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なし アプローチの仕方によっては…相原智記

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前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2015-6-9 9:15
m-hanami  モデレータ   投稿数: 374
アプローチの仕方によっては…
              相原智記

製造会社で仕事をした経験がある。
トリノ市にある伊・日の合弁会社だが、現地従業員1000名ほどの建設機械を製作する工場で、10年間働いた。
それまではローマで10年間、あるテレビ局の支局に勤めていた。イタリアの政治や社会の情報収集が主な仕事だが、語学力に幅を持たせたく、異なる分野を模索していた矢先のオッファーだった。通訳が私の本業ではない上に、製造分野は苦手なので躊躇したが、技術面はサポートするというので受け入れた。
工場で飛び交う未知の専門用語に恐れをなし、必死になって業界用語・表現集を作りながら仕事に臨んだ。職場には日本人エンジニアとマネージメント要員合わせて10名ほどいた。誰もイタリア語を話せなかった。2、3人は英語を話せたが、イタリア人には通じないアンバランスな状態だった。そのことは、とりわけ現場で共同作業をする上で「スピード」や「理解」に厚い壁となっていた。 
日本企業の品質管理は世界でも最高水準だとイタリア人は称賛する。そんな日本人エンジニアの自信と誇りが私には輝いて映った。 
彼たちの任務は、製造における水準の高い品質管理のノーハウをイタリア人に指導することだ。技術面で私が直接関わることはない。 
私の出番には必ず事前打ち合わせをしてくれたので、専門用語は使いこなせないものの、どうにかイタリア人に伝えられたのは幸運だった。また、翻訳は後に問題が噴出しないように、二重、三重のチェックをしたが、それは翻訳の正確さを期すには必要だった。しかし、日本人とイタリア人の間にある言語問題は残った。大変興味深いエピソードがあった。 
20代後半の日本人技師が「5S」運動を普及させようとした。日本では知られている運動だという。製造業・サービス業などの職場環境の維持改善を徹底するために整理・整頓・清掃・清潔・躾の5つの項目にまとめたものだ。各単語をローマ字表記するといずれも語頭が「S」になることに由来している。 
職場環境の美化、従業員のモラル向上の効果を狙った方法論だ。これには、業務の効率化、不具合流出の未然防止、職場の安全向上のような間接的な効果もあるといわれる。私には素晴らしい活動のように思えた。 
しかし、すぐ疑問が浮き彫りになった。日本語と同じ意味のイタリア語を当て嵌めるのだが、件の日本人の意図は、語頭が「S」で始まるイタリア語を用いようとするものだったからだ。イタリア人スタッフと一緒に言葉を探すも、該当する語が見当たらず、イタリア人自身が困り果てた。当初からイタリア人からもコンセンサスは得られない案だった。
「日本語に合致するSから始まるイアリア語を見つけるのは、無理かもしれませんよ」
私は頃合いを見て困難な状況を説明した。
「いや、なんかあるんじゃないですかね」
しかし、計画は頓挫をきたした。日本語に固執し、日本の「やり方」を通そうとしたのが失敗の大きな要因だ。方法論なら「S」に拘る必要はないのだ。日本言の概念を理解させ、その語義に該当するイタリア語で「5S」の趣旨は十二分に伝わるのだ。日本の「やり方」をそっくり海外で導入することは、一歩誤ると押し付けになり、不信感を増長し兼ねない。決して建設的な手法とは言えない。 
日本式やり方が日本で通用し成功するのは、日本における社会的・文化的・経済的な環境が揃っているからだ。それを理解し柔軟に対応しないと、メンタリティや言語や作法のような土壌が異なる外国では、いかに素晴らしい「やり方」でもうまく行くとは限らない。
現地従業員と関わる上で、機能面の秀逸性の他に、建設的に情緒面からもアプローチする姿勢は、大きな異文化対応力となる。それには、習慣的思考パターンに縛られず、両国の間に横たわる文化の違いを比較、理解する意識を養う努力が大切であり、それは共同作業を効果的に進めるためには欠かせない要素となる。
推奨数:1 平均点:10.00

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