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5、綾部の防火対策

綾部の里に花が咲く

第十三章 綾部の春は奇祭だらけ

6、さくら祭り

 四月に入って各地の桜便りが話題になる頃、綾部市内はどこもかしこも桜だらけ、どこで車を停めても視界には桜の花が入ってくる。
 案の定、加納美紀、神山紗栄子両仮課長を加えた朝のお茶タイムで中上専務理事から小太郎に指示が出た。
「そろそろ桜も見ごろになった。今度の日曜日は、日本一の桜祭りを撮って来い」
「また日曜出勤ですか?」
「どうせ、デートの相手がいるわけじゃなし。時間潰しに丁度いいだろ?」
「では、支度して出かけます。二泊ぐらいはいいですか?」
「なんで二泊だ? 半日もあれば充分だぞ?」
「そんな無茶な。日本一の桜なら東京ですよ」
「おいおい、まさか上野の桜とか言うんじゃないだろうな?」
「惜しい! 近いけど違います」
「じゃあ、スカイツリー絡みで牛嶋神社と隅田川堤か?」
「残念、千鳥が淵、飛鳥山も外れです」
「そんなの考えてもおらん。東京には日本一の桜などあるもんか」
「それがあるんです!」
「どこだ?」
「北千住です」
「なんだ。おまえの住んでた近所の公園のことか? 桜も二、三本だろ?」
「バカにしないでください。北千住の桜スポットはなかなか凄いんです」
「どう凄いんだ?」
「北千住駅の大踏切から東へ、柳原地区を抜けて荒川の土手に向かう大通りが桜並木で、ひと昔前に戦車で固めた土手の両側を約一キロ、延々と続く桜のトンネルで、毎年桜の時期になると、大勢の老若男女が、桜祭りに集まって踊りながら練り歩くんです。その道に並行してもう一本、桜並木があり、それを併せるとなんと約百五十本のソメイヨシノが咲き誇ってる日本一の桜並木ですよ」
「なにが日本一だ。上野だって千二百本の桜があるんだろ?」
「でも、あそこはホームレスがいますから」
「北千住にはいないのか? 大橋君だって似たようなもんじゃないか?」
「今は、こうして正業に就いてます」
「だったら、素直に取材に行けばいい」
「どこへ?」
「どこって日本一の桜っていえば山家(やまが)城址公園に決まっとるだろ。今度の日曜に桜祭りのイベントがある」
「そんなの知りませんよ。日本百選の桜に入ってますか?」
 それまで呆れ顔で沈黙を守っていた加納美紀がとうとう我慢しきれずに口を挟んだ。
「お二人共、いい加減にしてください。日本どころか世界一のお花見なら、世界遺産の清水寺が私のお花見お勧めスポットです」
「まさか? 僕も修学旅行で清水寺に行きましたが、あそこは紅葉の名所でしょ?」
「清水寺には約千五百本の桜が能舞台を覆うように咲き誇り、夜にはライトアップされた夜桜もいいです」
「夜は拝観禁止じゃなかった?」
「清水寺では、桜の季節だけ特別で、夜の部は九時まで拝観OK、お山全体が温かい色合いで幻想的で・・・」
 ふと神山紗栄子が呟いた。
「わたしは、あそこでデートしたのが悪かったのよ。彼とは別れちゃった」
 中上専務理事が怒鳴った。
「いい加減にしろ! 清水寺、平野神社、岡崎疎水、哲学の道、大阪造幣局、目黒川など桜の名所はいくらでもあるが、綾部の桜が一番だ」
「いえ、北千住です」
「大橋君! きみはどこで給料もらってる?」 
「綾部の商工会議所です」
「だったら綾部が一番だ。日曜日には山家へ行って日本一の花見風景を眺めて来い!」
 その四月の第二日曜日が来た。
 綾部市内の桜は、いずれも満開で見事なだけに中上専務理事の大げさな言い様も尤もに思えてくる。
 中上専務理事に言われるまでもなく小太郎は、山家城址の桜が有名なことは周囲から聞かされて知っていた。
 山家城址の桜が有名なことは小太郎も知っていた。これまで、市内味方町の紫水ヶ丘公園から始めて、丸山スポーツ公園、二王公園、綾部市総合運動公園とお花見のハシゴをして、桜には少々食傷気味ではあったが、華やかな桜を愛でる雰囲気は好きだから、誰からも聞かされる山家の桜だけは、綾部の桜の聖地として百パーセント満開の環境で眺めたかったのだ。それがこの日であることを小太郎は願った。
 少し寝坊して予定より三十分遅れの朝十時半に家を出て、小太郎は愛車・バンガードを駆って会場に向かった。
 雄大な由良川を眼下に眺めて綾部大橋を渡り、南味方のT字路を右折して国道二十七号線を京都市方面に南下すると喉がゴクリとなる。これは、ソ連邦のイワン・パブロフの発見した科学的理論の条件反射であるだけに仕方がない。小太郎が「パブロフの犬」と同じ現象を起こすのは、この道を走る限りは止むを得ないのだ。間もなく、その原因となる古くてユニークな建物が、新綾部大橋からのT字路信号の右手前に見えて来る。高い煙突と大きく酒の字を白抜きした青暖簾と杉玉と呼ばれる赤い玉を吊るしてあるのが特徴の酒造所だった。
 店舗名は若宮酒造、丹波地方を代表する米や桑の実を贅沢に用いる日本酒メーカーで、地酒の「綾小町」や純米大吟醸「丹の国」などで知られ、とくに「だいぎんgは小太郎の愛飲酒なのだ。これではその純米酒の芳醇な香りを想像しただけで喉が鳴るのも仕方がない。この会社は、創業が大正九年と百年近い古くて長い歴史をもちながらも、若い女性をターゲットにした桑の実と日本酒をベースにしたリキュールなどでも成功していしてて伝統と近代化を取り入れたその経営手法はなかなか新鮮で堅実なのだ。しかも、社名の由来は、平安時代に仁徳天皇を祀った若宮神社がこの地に建立され、そこの宮水を初期の酒造りに使ったことから若宮酒造としたとか。これは、商工会議所で実質トップの中上専務理事から聞いた話だからまず間違いない。
 ともあれ、無事に難所を通過して目印とした行動沿い左側の消防車車庫脇を左折して、いよいよ綾部市東部上林エリア・広瀬町の山家城址公園地区に入った。その途端、運転席にも響く勇壮な陣太鼓の音が聞こえてきて、小太郎は、ほんの一瞬だが歴史の学習で知った「谷の空鉄砲」の故事を思い出していた。
 京の北の護りとして重要な地にある綾部東方の山中に山城が築かれたのは永禄六年(一五六三)三月という説がある。その当時、この周辺の和知から上林一帯を支配していたのは、和久左衛門佐義国なる武将で、当時は甲ヶ峰(二三六m)にちなんで甲ヶ峰城とよばれていた。
 その後、和久氏は、丹波地方平定を目指した織田信長の先鋒武将の明智光秀に破れて、この地で帰農したと伝えられている。
 この地の主になった明智光秀も、本能寺の変で織田信長を倒したが羽柴秀吉に破れてこの世を去った。その後、天正十年(一五八二)に、
天下統一の野心に燃える秀吉から送り込まれて来たのが秀吉配下の武将・谷出羽守衛友(もりとも)で、禄高は一万六千石だった。
 谷衛友は、十六歳で父・衛好(もりよし)と共に羽柴秀吉に仕え、の織田信長の播磨平定戦に従軍した。その折りの三木城(兵庫県三木市)攻防の激しい乱闘で父・衛好は討死するが、衛友は敵に斬り込んで父の首を奪還し、戦いも勝利した。秀吉は衛友の軍功と忠孝を讃えて
父・衛好の遺領(播磨国平田六千石の相続を許している。
 その後も谷谷衛友は、秀吉軍の若き猛將として戦い、秀吉が明智光秀を倒した山崎合戦においても武功を立て、秀吉から山家一万六千石に封じられて大名となっている。谷家には、羽柴秀吉からの感状と共に家紋として「五三の桐」を賜り、その紋はあちこちに遺っている。
 当初は、和久氏が遺した甲ヶ峰城に入ったが、山城は不便とみて、その麓に新たな陣屋を築いたのが山家陣屋で、以来、谷氏は十三代を継いで幕末までこの地を領していた。
 関ケ原の戦いでは、秀吉の与力でもあった谷家は当然ながら西軍にあって、東軍に与した舞鶴の細川幽斎が籠る落城寸前の田辺城を最前線で攻める役割に直面した。だが、谷衛好にとって細川幽斎は歌道の師でもあり親しい仲だけに干戈を交えるのは意に反するので、衛友は田辺城攻めを形だけにするため、敵将・徳川家康の側近である本多正純に通告した上で、谷軍は全面的に田辺城を包囲した上で、実弾を抜いた空砲で激しく撃ちまくって戦いを挑んだという。本多正純からの通報でそれを知った細川軍も谷軍には反撃せず、田辺城の籠城戦は大いに長引き、朝廷の勅命で講和が命じられることになる。
 関ケ原の戦いは東軍の勝利で終わり、谷衛友は敗軍の将となるが、細川幽斎の助命歎願と本多正純の口添えで、徳川家康から本領安堵の特例を受け、谷氏は西軍に属したにも拘わらず、一万六千石そのままで山家陣屋を守ることが出来た。この時の「谷の空鉄砲」は、師の危機を救った美談として今でも語り継がれている。
 その後の衛友は晩年、二代将軍・徳川秀忠の御伽衆として重用され、将軍に試刀術を指南したとの言い伝えもある。衛友は父に伝えられた
試刀術の達人で、戦場での一騎打ちも厭わない剛腕で剣技に優れた武将でもあったのだ。
 谷家はその後、分家に梅迫、上杉、十倉と六千石の所領を分けるが、その総石高は幕末まで変わらなかった。
 幕末に藩主を継承していた谷大膳亮衛滋(もりしげ)は戊辰戦争の際、西園寺公望指揮する山陰道鎮撫軍にあって東征している。
 旧陣屋は明治3年(一八七〇)に火事で焼失、その後に代々の藩主・谷氏を祀る谷霊神社が建てられ、陣屋の遺構である堀跡や土塁痕が残っていたことから、昭和62年(一九八七)に総面積約2万平方メートル超の広大な土地が山家城址公園として開かれ、その後に模擬門が建てられたように小太郎は聞いている。ともあれ、駐車場からすでに曇り空をピンクに染めた城址公園の桜のあでやかさが目に入った。


7、綾部の桜は日本一


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